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ペンギンと地球

エンペラーペンギンの試練~南極の温暖化はどのようにペンギンを襲うのか?~

著:上田一生

「南極が温暖化するとペンギンが絶滅する」・・・そう信じている人が多い。たしかに、その可能性は否定できない。しかし、南極でしか繁殖できない純粋の「南極ペンギン」といえるエンペラーペンギンやアデリーペンギンは別として、ふだんは南極の周囲「亜南極」で繁殖し時々南極圏内にやってくるヒゲペンギン、ジェンツーペンギン、マカロニペンギンなどの「亜南極ペンギン」たちは、必ずしも地球温暖化に苦しめられてはいない。特にジェンツーは、最近20~30年間に23%ほど個体数が増えたという調査結果がある。ジェンツーの総個体数は38万つがい以上(2013年)だから、エンペラーの約23万つがい(2012年)に比べると、野生個体群は着実に成長しつつある。つまり、南極や亜南極の温暖化は、必ずしもそこに生きるあらゆるペンギンたちに不幸をもたらしているわけではないのだ。
とはいえ、エンペラーペンギンたちの現状や未来がジェンツーペンギンたちの増加によって改善されるわけでもない。また、個体数をモニタリング(継続的に追跡調査)するだけで、個々のペンギンの危機的状況を完全に把握することはできない。その典型的な例が、実はエンペラーなのだ。ペンギンの個体数動向を正確に把握し評価するためには「長期個体数変動データ」が不可欠。しかし、エンペラーの場合、最も長く個体数が記録されているのはジオロジー岬のコロニー(集団繁殖地)で、1950年からのことに過ぎない。近年の新しい調査手法の導入によって、南極でのペンギン個体数調査は長足の進歩をとげた。そのため、エンペラーの個体数は10年前に比べて倍増してしまった。つまり、10年前までは「未知」だった新しいエンペラーのコロニーが次々に発見され、見かけ上、この10年間でエンペラーの個体数は激増したのだ。当然、この結果は「エンペラーの危機的状況」を説明する証拠にはならない。
そこで、研究者たちは個々のコロニーに注目している。30年以上にわたって存在が確認され、モニタリングされている繁殖地に限ってみると、エンペラーの個体数は「安定(増減なし)」している。しかし、最近は、コロニー全体が消滅してしまうことが時々ある。それは、巨大な棚氷(海上に張り出した南極氷床の先端部)が漂流し、それが再びほかの場所にある海氷や棚氷にブーメランのようにもどってきて、着床(あるいは座礁)してしまうのだ。そうなると、コロニーから海の距離が遠くなったエンペラーの親鳥たちが子育てとコロニーとを放棄して、新たな繁殖地に移動してしまうことが多い。また、親鳥も含めた、コロニーが丸ごと全滅してしまうこともある。専門家は、このような「コロニー消滅」をひきおこす「巨大棚氷の漂流」の原因は地球温暖化にあると考えている。
というわけで、南極の温暖化が、実際にはどのようにエンペラーペンギンを苦しめているのか、そのメカニズムを完全に解明するまでには、まだまだ時間がかかりそうだ。しかし、そのデータ収集やより正確なペンギンたちの動向調査を継続し、信頼できる知見を蓄積していくことによってのみ、どのようにエンペラーたちに手をさしのべ、南極や地球全体の温暖化に対処していけば良いのかという道すじを見いだすことができるのだ。エンペラーペンギンの試練は、実はわれわれ人間の試練でもある。

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